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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)96号 判決 1963年5月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする

理由

上告代理人鈴木於用の上告理由第一点について。

上告人の被用者であるDが判示のように自車の方向転換をして後続車たるE操縦にかかる自動車の進路に立ちふさがり、その前方視野を妨げた旨の原審認定は、これに対応する原判決挙示の証拠に照らして肯認し得られる。ところで被上告人らの本訴請求は、判示事故が右Dの自動車運転上の過失に因るものであるとして、不法行為に基づく損害賠償を請求するものであるから、原審の右認定中のDの自動車がEの自動車の進路に立ちふさがつたという事実は、過失認定の具体的事実として挙げられたにすぎず、原判決に所論(一)にいう違法があるものとはいえない。また、原審の前?認定をもつて物理的にありうべからざる事実を認定したものといえないことは明白であるから、原判決に所論(二)にいう違法も認められない。よつて論旨はすべて採用し得ない。

同第二点について。

原審認定によれば、所論上告人主張事実は否定されているものと解し得られ、且つ原審の確定した事実関係のもとでは、本件事故につきDの過失を肯定した原審判断は是認し得られる。されば原判決に所論の違法はなく、所論は畢竟、原審の専権に属する事実認定を非難するか、原審の認定に副わない事実を前提として原判決の違法をいうかのものにすぎず、採用し得ない。

同第三点について。

原審認定によれば、Fは本件事故により判示のような重傷を負い、このためその約一六時間後に死亡したというのであるから、Fはその傷害によつて取得し得なくなつた利益の賠償として、通常生存し得べき期間に得べかりし財産上の利益の賠償を請求する権利をその傷害の瞬時に取得し、この権利をその相続人である被上告人Bらにおいて承継取得したものと解するのが相当である。(この点につき所論引用の大審院昭和三年三月一〇日判決は、その後の同院昭和六年(オ)第三〇〇〇号、同七年三月二五日判決、昭和一六年(オ)第八四三号・同一六年一二月二七日判決等により自ら変更されたものと認められるのであつて、採用し得ない。)しかして、加害行為と相当因果関係ある利益が被害者側に生じた場合、損益相殺として損害賠償額算定の際にこれを控除すべきは当然であるが、本件の場合、Fの死後その相続人である被上告人Bにおいて従来Fが取締役社長をしていたG株式会社の社長に新たに選任され就任して所論の月額手取り報酬を受けていることをもつて直ちにFの傷害およびこれに基づく死亡と相当因果関係のある利益であるとはいい得ないから、原判決が被上告人Bの右受給につき損益相殺による控除をなさなかつた終局の判断は正当として是認し得られる。所論は独自の見解に立ち、これを前提として原判決の違法をいうものであり、採用し得ない。

同第四点について。

原審はFがG株式会社から受給していた社長報酬中に右会社に対する投資の所産たる配当が加味されていたものとは証拠上認められない旨判示しているのであつて、その認定上に所論の違法があるものとは認められない。論旨は採用し得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官    池   田       克

裁判官    河   村   大   助

裁判官    奥   野   健   一

裁判官    山   田   作 之 助

裁判官    草   鹿   浅 之 介

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